toarudaigakuseizakkiの日記

自分の文章をネットの海に残すことを目的にしています。

『あなたへの恋文』(創作小説)

はしがき

私のあなた様への愛は真実の愛であると断言できましょう。あなた様のためならどんなお金も時間も惜しくありません。この手紙を書いている内にそれが確信できたのです。勢い任せに書いた恥ずかしい恋文ではありますが、どうかお読みになってください。お返事は必要ありません。愛をこめて。

親愛なるあなた様へ。はじめまして。恥ずかしながら、私はあなた様へラブレター、いわゆる恋文と言うものを初めて書いてみようと思います。恋文を書くのもこれが初めてです。本当ならば、あなた様のお名前をお聞きして、少なからず交流を深めてからこういうことはするんでしょうけれども、あなた様は決して私とお話してくれないので、お名前を聞くこともできませんでした。突然のことでさぞかし驚きになっているでしょうけれど、どうかこの手紙をご覧になってください。

昔から私は人を好きになることがほとんどありませんでした。そもそも人づきあいが苦手な性分だったのも相まって、人に心を開けず、人を信じることもありませんでした。人の愛は欺瞞に満ち溢れております。しかし、私のあなた様への愛は違います。これほど純な愛は存在しないと確信しております。あなた様が決して私に振り向いてくれないことを理解しておりますゆえ、このような捨て身の愛を向けることが出来るのでしょう。私はあなた様をずっとお慕いしております。

私があなた様に初めて気が付いたのは七歳の時であります。実際には私が自我を持った時からなんとなくお慕いしていたようには感じますが、正確にあなた様を捉えたのは七歳の頃だったと存じます。私が放課後一人で漫画を読んでいて、ふと顔を見上げた瞬間にあなた様の後姿を拝見しました。子供ながらに「なんとかっこいいんだろう」と感じたものですが、あなた様を追いかけることもできずにただ茫然としている内にあなた様はどこかへ行かれてしまいました。

次にあなた様をお見かけしたのは私が十四歳の時であります。多感な時期でしたから、私は簡単に恋に落ちてしましました。あなた様は日々ぼんやりと私の前を歩いておられましたから、私もいつかあなた様に追いついてしまいたいと思っていたものです。その時、私はあなた様に少しづつ近づく方法に気が付きました。簡単なことで、走れば良いのです。そのたびに私はあなた様へお近づきになることが出来て、どんなに嬉しかったことでしょう。それでも私は決してあなた様に追いつくことはできませんでした。

そして十八歳の時、人生で最も大変だったと言える試験の直前、私はあなた様の背中を眺めながら勉強しておりました。その試験を終えた時、私はあなた様の真横へ行けたように感じておりましたのに、少し時が経つとあなた様はどこかへ行ってしまいました。なんと思わせぶりな方なのでしょう。私はあなた様の真横にいられた時の高揚を忘れられずにおります。この前も私が試験に受かったとき、あなた様は私に微笑んでくれたように感じます。私が自己研鑽の運動をするたびに私はあなた様に近づけたように感じます。そのたびに私は自分が恋をしていることを感じます。ああなんと罪深いお方なのでしょう。私はあなた様に振り回されるばかりの人生を未だに送っております。

それでも私は決してあなた様が私のもとに近づいてきて、私のものになってほしいとは思いません。そんなことをされたら私の人生は無価値なものになるでしょう、私にとって人生とはあなた様を追いかける旅であります。恋路と言い換えることもできましょう。恋愛が苦手な私が生まれながらに片思いしているのがあなた様なのです。ですので、あなた様に近づきたいと日々お慕いしておりますが、決して追いつきたくはないのです。追いついた時、私の旅路は終わります。それでも私の最後はあなたがいいと心から思います。最後、人生の終着点であなた様が私と一体になってくれたらそれだけで無上の幸福であります。

あなた様からの御返事は無いでしょう。それでもいつかあなた様に振り向いてほしいと存じます。名残惜しいですが、お元気で。

 

他ならぬ、理想の私であるあなた様へ。私より。